膝の痛み、年のせいだと諦めていませんか?
「最近、膝が痛むけれど、きっと歩きすぎただけだろう」 「立ち上がる時に少し痛むけど、病院に行くほどじゃないかな…」
そう思って、痛みをやり過ごしている方、実はとても多いのではないでしょうか。こんにちは、整形外科医の堀口です。外来で患者さんとお会いしていると、こういった膝の痛みを抱えながらも、「年のせいだから」「よくあることだから」と我慢されている方が本当に多いと感じます。
しかし、診察させていただくと、そのほとんどの方に「変形性膝関節症」という、膝の軟骨がすり減っていく変化が見られます。
今回の記事では、どんな症状があれば病院に相談した方が良いのか、そして整形外科では一体どんな検査をするのか、そのすべてをお話ししたいと思います。この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、専門家と一緒に未来を考える一歩を踏み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
あなたの膝は大丈夫?変形性膝関節症の初期症状セルフチェック
私の外来には、「長時間座った後、立ち上がる瞬間が痛いんです」「階段を降りるのが怖くて…」と相談に来られる方が多くいらっしゃいます。そして、そういった症状を抱える方の膝を調べてみると、やはり変形が始まっているケースがほとんどです。
特に注意していただきたいのが、「たくさん歩いた後に痛むけど、休めば治る」というケースです。痛みが一時的に引いてしまうため、「まだ大丈夫だろう」と受診が遅れがちになるのです。山登りや庭の草むしりの後などに痛みが出る方は、もしかしたら膝があなたに送っている大切なサインかもしれません。
動き始めの痛み(立ち上がりの「イタタ…」)
「よっこいしょ」と立ち上がる瞬間、膝に痛みが走る。これはなぜでしょうか?理由は大きく2つあります。
一つは、膝にとって「立ち上がる」という動きが、とてもパワフルな仕事だからです。深く曲がった状態から、グッと全身を支えて伸び上がる。この時、膝には体重の2倍以上もの負荷がかかっているのです。痛み始めた膝には、この仕事が少し荷が重いのかもしれません。
もう一つは、関節を滑らかに動かすための「潤滑油」がうまく働いていないからです。私たちの関節の中は、「関節液」という潤滑油で満たされています。しかし、長時間動かさないと関節液がうまく循環せず、動き始めに痛みが出やすいのです。しばらく動かしていなかった機械の歯車が、最初はギシギシと音を立てるのに似ていますね。動き始めることで、また潤滑油が行き渡り、痛みは和らいでいきます。
階段昇降時の痛み(特に下り)
階段、特に下りるときに膝が痛むのも、典型的なサインです。これも立ち上がりと同様、膝への負担が非常に大きい動きだからです。なんと、階段を下りる一歩で、膝には体重の3〜4倍もの負荷がかかると言われています。膝は、あなたが思っている以上に毎日頑張ってくれているのです。
膝のこわばりや、腫れ・熱感
「最近、特に何もしていないのに膝がズキズキする」「膝が腫れぼったくて、熱を持っている感じがする…」
もし、このような症状があれば、それは関節の中で「炎症」が起きているサインです。
炎症を**関節の中での「小さな火事」だと想像してみてください。**火事が起きると、体はそれを消そうと必死になります。その消火活動のために集まってきた水分が、過剰な「関節液」です。これがいわゆる「膝に水がたまる」という状態の正体。つまり、「水がたまっている」ということは、あなたの膝がSOSを発している証拠なのです。
症状の進行と変化|初期・中期・末期で何が変わるのか
一般的に、症状が強くなるほど病気も進行していると考えられます。しかし、私が日々たくさんの患者さんの膝を診ていると、必ずしもそうとは限らないのが、この病気の難しいところです。
レントゲン写真では骨の変形がかなり進んでいるのに、元気に歩いて旅行にも行かれる方。逆に、レントゲンではほんの少しの変化しかないのに、強い痛みで歩くのも辛いという方。どちらも実際にいらっしゃいます。「生活には困らないけど、時々痛む」という方が重度の変形だったり、「痛くてどこにも行けない」という方が実は初期段階だったりすることも珍しくありません。痛みだけでは、本当の進行度は分からないのです。
ただ一つ、病気の進行度を知る上で非常に重要なサインがあります。それは**「可動域制限」、つまり膝の動く範囲が狭くなること**です。
「以前のように正座ができなくなった」「あぐらをかくのが辛い」
もし、こんな心当たりがあれば注意が必要です。これは、膝の内部で変化が進み、スムーズな動きが妨げられているサインかもしれません。
もちろん、末期になれば痛みで日常生活が大きく制限されてしまいます。しかし、ほとんどの方はその前に病院を訪れてくれます。治療は、どんな病気でも早ければ早いほど選択肢が広がります。どうか無理をせず、早めに相談に来てくださいね。
整形外科では何をするの?初回診察から診断までの3ステップ
「病院に行ったら、何をされるんだろう…」と不安に思う方もいるかもしれません。大丈夫です。私たちは、あなたと協力して、痛みの原因を突き止めていきます。
ステップ1:問診(あなたの言葉が一番のヒントです)
まず、あなたのお話をとことん聞かせてください。
「いつから、どんな時に痛みますか?」 「きっかけに心当たりはありますか?」
例えば、「家のソファに足をぶつけてから痛むようになった」といった些細なことでも、私たちにとっては診断の大きなヒントになります。過去の足のケガなども、ぜひ教えてください。
そして、最も重要なのが「どんな時に、どこが痛むか」です。「階段を降りる時にお皿の上が痛い」「立ち上がる時に膝の裏側が痛む」など、あなたの生活の中での具体的なシーンを教えていただけると、痛みの原因にグッと近づけます。「すねのほう」といった抽象的な表現でも全く問題ありません。あなたの言葉で、あなたの感じたままを伝えてください。
ステップ2:触診(膝の状態を直接確かめます)
次に行うのが、私があなたの膝に直接触れて状態を確かめる「触診」です。
膝がどこまで曲げ伸ばしできるか、特定の場所を押したり、膝を動かしたりして痛みが出るかなどを丁寧に調べていきます。膝がグラグラしていないか、安定性もここで確認します。
時には、痛みの原因となっている場所を探すために、あえて痛みを再現させることもあります。少し辛い瞬間かもしれませんが、原因を特定するためのとても大切な時間です。一緒に頑張りましょう。
ステップ3:レントゲン検査(骨の状態を画像で確認します)
最後に、レントゲン検査で骨の状態を「見える化」します。レントゲンは、いわば骨の健康診断のようなものです。
この検査で、軟骨がどれくらいすり減っているか、骨がどのように変形しているかを確認します。
実は、レントゲンには軟骨そのものは写りません。ではどうやって判断するかというと、骨と骨の隙間の広さを見ています。この隙間が狭くなっているほど、軟骨がすり減っていると判断するのです。
また、私たちはできるだけ立った状態でレントゲンを撮ります。なぜなら、寝た状態では隠れていた問題が、体重がかかることで初めて明らかになることがあるからです。重度の方では、軟骨がほとんどなくなり、骨と骨が直接ゴツンとぶつかっているのが分かります。
より詳しい検査が必要な場合とは?(MRI・血液検査など)
レントゲン検査は骨の状態を見るのには最適ですが、軟骨やクッションの役割を果たす半月板(はんげつばん)、膝を支える靭帯(じんたい)といった、骨以外の組織の詳しい状態までは分かりません。
もしレントゲンを「家の骨組みを見る設計図」とするなら、MRIは**「壁の中の配線や断熱材、家具の傷みまで分かる精密検査」**といったところでしょうか。レントゲンでの変形は軽いのに痛みが強い場合など、半月板や軟骨の傷を詳しく調べる必要があると判断した際には、MRI検査をおすすめすることがあります。MRIで初めて骨の内部に傷が見つかり、それが痛みの原因だと判明することもあるのです。
我慢しないで、あなたの「これから」のために
膝の痛みは、誰にでも起こりうる、とても身近な症状です。しかし、それを「よくあること」だと我慢し続けてしまうと、あなたの行動範囲を狭め、生活の質そのものを下げてしまうことになりかねません。
大切なのは、痛みの原因を正しく知り、適切な対処を始めることです。幸い、今の時代にはたくさんの治療法があります。一人で抱え込まずに、まずは私たち整形外科医に相談してみてください。あなたの痛みに寄り添い、一緒に解決策を探すパートナーが、ここにいます。
さあ、あなたの回復への旅(航海)を始めましょう。Bon Voyage!
免責事項
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を保証するものではありません。症状に心当たりがある方は、必ず医療機関にご相談ください。
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